秋の自主事業から…クラシックもカリブ音楽も (2007/09/07掲載)

■子どもたちに本物の舞台芸術を
 先日当館を訪れた大館生まれのヴァイオリニスト佐藤久成さんから、こんなエピソードを伺いました。音楽の好きだった久成さんのお父さんは大館での中学時代、放課後に音楽の先生からピアノを教えてもらったそうです。結局お父さんは音楽の道には進みませんでしたが、後に息子がヴァイオリンを手にしてソリストとして活躍することになりました。少し飛躍があるかもしれませんが、お父さんの中学の先生は授業・教科の外で立派な教育をした。間接的に一世代後のヴァイオリニストを育てたというか、少なくともその種子を蒔いたといえるのではないでしょうか。

 この話から文化会館の自主事業についてちょっと考えさせられました。例えば「アウトリーチ」という言葉があります。文化会館に来られない人たちやそのジャンルになじみのない人たちに見て聴いてもらうため、文化会館の外へ舞台芸術を届けることです。当館でもこれまで学校や病院などで佐藤久成さんや若手落語家などのアウトリーチを実施しています。入院患者の方々が久成さんの演奏に涙を流して感動している姿などを見たりして、そのこと自体の意義には疑問の余地はありません。

 ところが文化会館職員としてはもう一つの欲があって、アウトリーチを本番の公演のチケット拡売に役立てたいと思ってしまうのです。これがなかなか上手くいかないんですね。冷静に考えれば、きょう聴いて明日のチケットを買うなんてことは難しいことだと分かるのですが。

 久成さんの話を聞いて思ったことは、アウトリーチや舞台鑑賞は明日やあさってのためだけにするものではないんだなあ、ということです。それらは今その時の純粋な喜びや感動のためであり、そしていつとも知れない未来のために種を蒔くことなのでしょう。文化芸術には目先の効果でない効果もあるんだということを、会館職員としては見据えていく必要があると改めて考えさせられました。

 アウトリーチだけではありません。当館の自主事業では小中高生にできる限り低料金で舞台を提供するようにしています。それは公立文化施設として、収支よりも大事なことがあると考える故です。

 9月15日の『上原彩子ピアノリサイタル』は、一般S席4千円のところ高校生以下は1千5百円で提供しています(ちなみに東京でのリサイタルは6千円です)。上原さんは、既に何度かこの欄でも書いていますがヤマハ音楽教室出身です。普通のピアノ教室出身者が世界最高峰のチャイコフスキーコンクールに優勝するという、さしずめ現代のシンデレラストーリーという話題性もありますが、彼女の音楽を子どもたちに感じ取ってもらうことでいつか何かが生まれることもあるに違いないと信じること、そこに希望を持ちたいと心から願います。ピアノを習っている子どもたちはもちろん、クラシック音楽に興味のない子どもでもぜひ一度本物の音楽を、それも生の演奏で聴かせてください。きっと何かが残るはずです。今回のプログラムでいえば、水の中の小石やガラスがキラキラゆらめくような、1分くらいの愛らしいごく短い曲が20曲集まったプロコフィエフの『束の間の幻影』が、子どもたちのこころに何を残すかとても楽しみです。そういうわけですから保護者の皆さん、ぜひ子どもたちをコンサートホールに連れて来てください。 (陽)


■スティールパンってなんだろう?
 スティールパンという楽器を知っていますか?言葉で上手く伝わるのか不安なのですが、ドラム缶を輪切りにして裏返し、底を中華鍋みたいに凹ませ打楽器…う〜ん…解りづらいかなぁ(苦笑)。中南米のカーニバルなんかでよく演奏されてる金属製の太鼓みたいなやつって言ったほうがわかりやすいかもしれませんね。無骨な外見からは想像もつかないような綺麗な音色で、聴いているだけで楽しくなるような、そんな楽器だと思ってください。

 スティールパンは、トリニダードトバゴというカリブ海の小さな島国で生まれました。トリニダードトバゴはカリブの国々では唯一の産油国で、ヨーロッパの人々はその石油を求めてその小さな島国へとやって来たのでした。その際に一緒に連れてこられたのが、多くのアフリカ人奴隷たちだったのですが、そのアフリカ人たちがその辺に転がっているドラム缶を切って叩いて演奏しはじめたのがはじまりと言われています。

 ところで、なぜ突然スティールパンの説明をしはじめたのかというと、10月20日、21日の2日間でスティールパンのワークショップを開催することをお知らせしたかったからなのですが、スティールパンの説明を少ししただけで紙面が尽きそうになってしまいました。ということで、少しだけ告知を。今回は弘前大学のスティールパン部と同大教育学部准教授である冨田晃氏を迎えてのワークショップです。小学校4年生以上ならどなたでも参加でき、スティールパンの演奏指導はもちろん、ミニスティールパンの作成、スティールパン部のコンサートなど盛り沢山の内容となっています。現在参加者募集中ですので、詳しくは大館市民文化会館までお問い合わせ下さい。(山)